2012年4月6日金曜日

心とはなんだろうか


 教育学科心理学 矢野 喜夫先生

 

 

 

 (関連科目:生活科・道徳)

 

 

(1)人の心

 みなさんは、人間には心があることを知っていますね。心は人間の中にあって目に見えないものですが、神秘的な霊魂とか、

心霊写真に写るガスような形のある物質ではありません。心は、みなさんがふだん何かをしたり話したり考えたりするときに、

働いている脳のはたらきです。

 心は目に見えないのに、なぜあるとわかるのかというと、それは人が何かをしたり言ったりすることでわかるのです。人が

したり言ったりすることは、目で見えたり耳で聞くことができます。人がしたり言ったりすることからわかるのは、その人の性格や

能力や人柄もあります。性格や能力や人柄も、それ自体は目に見えないもので、その人がしたり言ったりすることからわかるものですが、

そのような人の性質は、わりに一定しているものです。それに比べて心は一定していなくて、変わりやすいものです。

 私たちは人といっしょに何かをしたり話をしたり、その人が何かをするのを見たとき、その人の性格や能力や人柄などのその人の

一定の性質と、そのときその場のその人の変わりやすい心の両方を感じとるのです。この人はこんな人なんだなあと思うと同時に、

この人は今こんな心でいるのだなあと思うのです。人はふだんはおとなしい優しい人なのだけど、今は怒っているのだなあとか、いつもは


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元気な人なのだけど、今は元気がないなあと思ったりするのです。そのような、人の心の状態を感じとることを、「人の心を読む」と言いますね。

人の心を読むのは、何も特別な業がなくてはできないことではなくて、ふだんだれもがふつうにやっていることです。

 

 

(2)いろいろな心

 映画の「オズの魔法使い」の中で、主人公の女の子ドロシーと出会って、

オズの魔法使いにお願いに行くために、いっしょに旅をするかかしと

ブリキマンとライオンが出てきます。かかしは、中身がわらだけで脳がないので

脳をほしがってます。ブリキマンは、ブリキでできていて中が空っぽなので、

ハート(これは心臓でもあり優しい気持ちでもあるのですが)をほしがっています。

ライオンは、ライオンのくせに勇気や度胸がないので、勇気をほしがっています。

そのかかしとブリキマンとライオンが、あったらいいなあと思ってほしがっている

ものが人間の心なのです。

 かかしがほしがっている脳は、頭のよさや賢さ、知能、知識のような「知る心」

「考える心」です。ブリキマンがほしがっているハートは、心臓のことですが、

それは優しい心や感情や気持ちのような「感じる心」です。ライオンがほしがって

いる勇気は、度胸やがんばり、精神力のような「がんばる心」です。ふだんよく、 心と言っているのは、優しい感じる心のことを

指していることが多いですが、 心には物事を知ったり考えたりするのも心もあるし、何かをする勇気ややる気や 精神力のような


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がんばる心もあります。人間には、このような3種類の心があります。

 人間の心は知情意があると言われています。知は、かかしがほしがっている、物事を知ったり考えたりする心です。情は、

ブリキマンがほしがっている優しさや感情のような感じる心です。意は、ライオンがほしがっている勇気や精神力のような

がんばる心です。でも、そのような3種類のこころは、ばらばらに働いているのではなくて、いっしょになって、またお互いに

影響しあって働いています。そのはたらき方が一人ひとり違うので、それが性格や個性になるのです。

 

 

(3) 小さい幼児は心をどのように考えているか

 人に心があるということはみんな知っているのですが、小さい幼児の子どもは、自分の心と他の人の心が違うことがわからない

のです。人にものをあげるときには、小さい幼児の子どもは、自分が好きなものを人にあげるのです。自分が好きなものと他の人が

好きなものがあって、どちらでもいいとしたら、みなさんなら、その人にあげるのは自分が好きなものより他の人が好きなもののほうを

選ぶだろうと思います。ところが、小さい子どもは自分が好きなものが他の人にも好きなものだと思うのです。ものの好き嫌いも

感じる心ですが、小さい子どもは、自分の心と他の人の心をあまり区別しないのです。

 また、小さい子どもは、自分が知っていることは他の人も知っていると思っています。自分が知っている

ことでも、他の人は知らないかもしれないのですが、知っているか知っていないかということで、自分の

知る心と、他の人の知る心を区別しないのです。作りものの蛇や蜘蛛を見せて人を恐がらせたり、わなや

落とし穴をつくって人をはめることはよくないことですが、そのようにして人をだますとき、自分は本当のことを


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知っているけれど、他の人は本当のことを知らないので、だまされるのだということがわかっていなければなりません。

 ところが、小さい子どもは自分が知っていることは、他の人も知っていると思うので、だますということが

わからないのです。だから、小さい子どもは人をわなにかけたりだましたりはしないのです。みなさんのような

大きい子どもやおとなは、自分が知っていても他の人は知らないので、他の人をだますことができるということを

知っています。だから、人をだましたり、ひとには本当のことを言わずにウソをいうことができるのです。

人をだましたりウソを言うことは良くないことですが、そのような良くないことができるということも、大きくなった

おかげなのです。

 知っている・知らないというのは知る心の状態ですが、この知る心は、本当のことを見たり教えてもらったりすれば、

すぐに知る状態に変わります。この心は変わりやすいのです。一度はだまされても、その後は本当のことを知ったので、もうだまされなくなります。

ところが、小さい子どもは、自分が本当のことを知ると、他の人も自分と同じように、本当のことを知ってだまされなくなると思ってしまうのです。

他の人は本当のことをまだ知らないということがわからないのです。小さい子どもは、「知っている」とか「知っていない」ということではなく、

むしろ本当の事実がどうなのかによって、他の人も行動すると思っているのです。「知っている」とか「知っていない」を付けて考えないのです。

 でもみなさんは、本当の事実はどうであるかではなく、その人がどう思っているか、どう信じているかによって、たとえそれが間違って

信じていても、人はそのような信じ込みによって行動することを知っています。

 


 みなさんは、トランプのババ抜きをするとき、となりの人からジョーカー抜いて取ってしまっても、それを人に知られないようにして、こっそり

それを次のひとに取らせようとすると思いますが、小さい子どもはジョーカーを取ってきたら、それが他の人がすぐにわかるように顔に出したり、

声を出したりします。小さい子どもは、何かを秘密にして人に知られないようにすることができないのです。それは、自分が知っていて他の人が

知らないことを、そのままずっと他の人が知らないままにするために、黙っているとか、自分が知っていることを知られないように、知らん顔を

することが、小さい子どもにはできないのです。

 このように、知っていることが自分と他の人では違うことや、見かけは何かに見えても中身がそれとは違うことがわかることも、知る心には

大事なことなのです。でも知る心がそのように発達しても、それを自分の得になることや、人をいじめたり、からかったりするために、知る心を

使うことは良くないことですね。そのような知る心は、良いことに使わないといけないですね。

 

 

                                                   



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